幽霊





刑事である咲の前に幽霊が現れて






夜中の二時。



眠りについていた咲は不意に仰向けのまま目を覚ました。すると彼女は、身体の異変に気づく。



身体が動かない。


そして身体の中で唯一動く目だけを下に向けると自分の腹の上あたりに見知らぬ男が乗っかっているのが見えた。
 



咲は声を出そうとしたが声が出ようにも何故かでない。なされるがままの彼女に、次の瞬間腹に激痛が走る。
 


ウウウ……
 


彼女は声にならない呻き声を発する。腹の上に立っていた男の両足が彼女の腹を押しつぶしていた。



止めて……苦しい…




息が苦しくなる。内臓が圧縮される感覚に襲われ吐き気も感じていた。しかし、咲の身体は依然として言うことを利かないままだった。
 


ウア!
 



すると男は、その場で飛び跳ね始めた。



華奢で面積の狭い咲の腹に的確に着地してはジャンプするを繰り返す。その度、ベッドがギシギシと軋む。
 




咲は激痛に苦しめられる中、男の顔を徐々に思い出していた。そう。この男は昨日彼女が麻薬取締り違反で逮捕した男にそっくりだった。彼女は刑事だった。
 


ヴァハ
 




咲の口から少量の黄色い胃液が滴り落ちて枕を汚す。



それを見た男は、飛び跳ねるのを止めニンマリと口ひげの生えた口をほころばせたと思うと、その姿が静かに消えた。



咲は意識が朦朧としそのまま眠るように意識を失った。
 



咲が目を覚ましたのは朝だった。
 



身体を飛び上がらせ腹を両手で摩る。痛みは消え、腹も何ともなっている様子はなかった。夢かと彼女はまた寝ようと頭を枕に乗せる。




すると、首筋に湿ったような感覚がありその部分に目をむける。そこには枕の一部分だけ水のようなもので湿っている形跡があり、そこに鼻を近づけると吐しゃ物の匂いがツンと匂った。
 



あとから聴いた話によると、咲が逮捕した男は彼女が逮捕したその晩に留置先の檻の中で首を吊って自殺を図っていたことがわかった。