腹筋





アイドルの裏の厳しさ








ライブ直前、全体のダンスレッスンが終わった後、玲奈はダンス教師に一人呼び出された。


「玲奈。あのさ、お前、明日の本番出さないから」


「え……」
 


教師に近づいて即効淡々とした口調で言われたのがその言葉だった。玲奈はその言葉に驚きと動揺を隠せない様子でその場に立ち竦み言葉を失う。



「玲奈さ、腹筋が一回もできない人間が何時間も踊れないんだよ」
 


厳しい口調で、教師が玲奈をキッと睨むように言う。玲奈はその細いウエストと運動不足からか、上体起こしが一回もできなかった。



「え、でも先生。私、出たいです」
 

だが、ここで玲奈もはいそうですかと引き下がるわけには行かない。



「……ダメ」




「先生。私、何でもします。そう。腹筋だって明日までに必ずできるようにします」



「信用できない」
 


玲奈の必死の訴えにも教師の厳しい口調が続く。



「お願いします。お願いします」
 


今までライブ本番のために何時間に及ぶダンスレッスンを受けてきた。それがこんな腹筋ができないことで水の泡になってしまうなど嫌だった。



玲奈はもう頭を下げるしかなかった。教師はしばし沈黙したのちに口開く。




「じゃあ、床に仰向けに寝て。ああ、上は脱ぎなさい」



「あ、はい」



 玲奈は何が何だかわからず、言われるがまま着ていたシャツを抜いで上半身はブラジャーだけをした裸の上体のまま床に仰向けになる




「よし。じゃあ、これから」
 

そう言いながら教師は、履いていた靴と靴下を脱いで素足でその上半身裸になった玲奈の腹に触れる。



「ん? 何をするんですか」



「これから、あんたを試すから。もう限界だったらギブ! って叫んで」



「え? どういうことですか?」


「行くよ」
 


教師は玲奈の質問に答える間もなく、触れていた右足の後ろ足を徐々に玲奈の腹に降ろしていく。踵が柔らかい玲奈の腹の臍の辺りにめり込んでいく。



「ウ! 痛い。先生。これは……」



「何? もうギブ?」



「いえ。その、これはううう……」
 


さらに教師は前傾姿勢になり、足に体重をかける。



「先生! 先生!」
 


玲奈の喘ぐような叫び声がスタジオを包む。そしてやっと教師の右足が腹から離れる。


玲奈は自分の腹から足が離れるとすぐに片手で腹を抑えて苦痛に顔を歪ませる。息があがり抑えているあばら骨が薄っすらと透けて見える薄い腹が上下に激しく動いている。



「やっぱダメね。こんなんでそんな悲鳴をあげちゃあ。いいよ。やっぱりダメ」
 


そんな玲奈に教師は突き放すように言い放つ。



「え? 嫌だ。先生。私。そんなの嫌です!」
 


それに玲奈もまだ負けない。ありったけの声を張り、教師に対抗する。



「じゃあ、あんなんで悲鳴あげるな! お腹から手を離せ!」
 


教師の怒鳴り声がスタジオに木霊する


「は、はい」
 


玲奈はそれに言うとおりに腹から手を離して弱弱しい返事をすることしかできなかった。



「じゃあ、行くよ」



「え? ウッ!」
 

すると今度は、玲奈の腹目掛けて勢いよく教師の左足が振り落とされる。
 


玲奈は身体をエビ反りにして丸まりむせ返る。柔らかい内臓が腹の奥の方で圧縮されて、元に戻れないでいる感覚に襲われる。



「ほら! ギブなの?」
 

容赦のない言葉が教師から浴びせられる。


「いいえ」
 

普通の女の子だったら、ここで泣いて終わりなのだろうが、負けん気の強い玲奈は気力で激痛に耐えながら仰向けになる。


「よし」
 


そこから何度か、教師は玲奈の腹を踏みつけた。その度玲奈は苦痛の表情ともう限界ではないかというくらいに意識が遠のくほどの激痛が襲っていた。それでも教師は表情一つ変えずに踏み続ける。
 


ウエ
 

そして教師の足が玲奈の鳩尾に調度当たった時だった。玲奈の口から透明の液状のモノが吐き出され床に零れ落ちた。


「このくらいでいいか」
 


教師は玲奈の腹から足を離すと、玲奈はゆっくりと自分の腹を両手で抑えて、息を切らしながら時にはむせ返りながら薄目を開けて天井を見上げていた。その彼女の額には無数の脂汗が流れ出ていた。



「どう? ギブ?」
 


教師の問いかけに玲奈はもう声も出ないほどに意識が朦朧としていたがそれでも首を懸命に横に振る。



「そう」
 


そして教師は仰向けの玲奈のそばに胡坐をかいて座る。



「わかった。私はあんたのその根性を信用するよ」
 


教師は優しく玲奈の額を撫でた。玲奈はそれに安心しきったかのようにゆっくりと目を閉じた。