腹パンじゃんけんが好きな彼




彼氏と私は今、同居しています。


彼といると、私は幸せです。彼といると時間の経過を忘れてしまう。それだけ、彼が好き。


でも、彼と暮らしている中で一つだけ困ったことがあります。


それは「腹パンじゃんけん」



彼はこれが好きで、いつも食後に私とやろうと言ってきます。



腹パンじゃんけんというのは、単純にじゃんけんをして勝ったほうが相手のお腹を殴っていくゲームです。それで最終的に立てなくなった方の負け。


くだらないゲームでしょ? でも彼はこれが好き。



今日も、食後に彼は食器をキッチンで洗ってくれた後それをやろうと言い出しました。そう、料理を作るのは私なのですが、食後の片づけをしてくれるのは彼。そこは優しく気が利く彼です。



「ええ? 今日は止めようよ。何か、今日のハンバーグしつこかったみたいで胃が……」



そう言って私は顔を歪ませながらお腹を摩りました。でも彼は、じゃんけんをしないと不機嫌で夜の楽しみをしてくれないのです。今日も同じでした。彼はそう言うと不服そうな顔をしています。




それで私は、そんな彼に負けて「わかったやるよ」と渋々今日もじゃんけんをするのでした。




畳の部屋。彼はシャドーボクシングというのもをして私を待ち受けます。彼は、このじゃんけんの為に週に三回ボクシングジムに通っているようです。私は言わないけど……




私と彼はお互い立ったまま向かい合いました。「私、今日はすぐに負けると思うよ」私は弱弱しい声で彼に言います。それに対し、彼は何も答えずニタリと笑うだけでした。



『じゃんけんぽん』



その掛け声で、腹パンじゃんけんは始まりました。




最初は、私がグーで彼がパー彼の勝ちでした。ヤバイと思い、私はお腹に力を入れようとするとその前に彼の拳が私のお腹に飛んできました。



「ウッ!」




胃袋の辺りが拳で凹まされます。胃袋が中へ押し込まれて、血の気が引く感覚。いつ感じても嫌な感覚です。そしてその後に来る鈍い激痛



私は咳き込みながら蹲りました。




「おいおい。今日は一回で終わりかよ」



私は一回しかこのじゃんけんで彼に勝ったことがありません。




一回目のじゃんけんで私が勝ち、まぐれで私のパンチが彼の鳩尾にヒットしたんです。まあ、その後は逆上されてお腹をボコボコに殴られて蹴られましたが……




大体はじゃんけんの弱い私が二度ほど負けて、彼のパンチをまともにくらい、腹筋もなく柔らかい華奢な私のお腹は彼の拳に耐えられず蹲って動けなくなる。そんなセオリーです。





私はお腹を抑えながら何とか立ちあがりました。「よし、じゃんけんするぞ」今日は特に、胃がもたれていたこともあり、かなりのダメージを負っている気がしました。現に、喉の奥の方に胃液の味がする気がしました。きっと次負けて殴られたらヤバいと思いました。ヤバいというのは吐くということです。




「じゃんけんぽん」




私はパー。彼はグーでした。私の勝ち。彼は両手を降ろしさあ殴れよと言わんばかりに胸を張りました。


私は彼のお腹めがけて一応思いっきり殴りました。でも、お腹が痛いのと彼のボクシングジムで鍛えた腹筋の上には私のパンチは全く利かず、拳がお腹の皮膚の前で止まってしまいました。



彼はもちろん、涼しい顔をしています。



「じゃあ、次な」彼の声かけに私は顔を顰めながら頷きます



「じゃんけんぽん」



私がチョキ 彼がグー



私はとっさに両手でお腹を抑えました




「おい! ルール違反だぞ。腹から手を離せよ」



彼は自分のお腹を覆う私の手を退けようとしました。



「ちょっと、今日はホントにヤバイ。これ以上殴られたら吐いちゃう」



「それでもいいじゃんかよ!!!


」私の手を無理やり退けて、手と手の隙間から彼は思い切りお腹を殴りました。さっきと同じところだったと思います。




「ウッ!!ゴホ!」




私は蹲ります。激痛。そして喉の奥からドボドボという音が聞こえます。胃袋が逆さまになったようにヒックリ返っているような感覚に襲われます。




「オオオ!!!」



私は口を片手で抑えました。そしてお腹の激痛に耐えながらキッチンへ駆け込みました。



吐きました。胃袋が口から出来そうでした。




黄色い液体の中に赤や茶色やいろんなものが含まれている、その物体が銀色のシンクにぶちまられていました。





私が嘔吐あとも堰と空嘔吐が続きました。



「お! 今日はゲロ吐いたな」



苦しんでいる私の横に、いつの間にか彼がいました。



「今日はじゃんけんの前に食器を洗ったかいがあったな」