アイドルREINAの腹パンチ会での出来事




握手会ならぬ腹パンチ会。限定100名でアイドルの写真集を買った方限定で握手の変わりにアイドルのお腹を一発殴るイベント。




「はい、ではこれからRAINAの写真集ご購入された方限定のRAINAさんとの腹パンチ会を始めさせていただきます。まずはREINAさんに登場させていただきましょう。みなさん拍手でお願いいたします」
 



雄叫びのような歓声の中、舞台の袖から上半身はビキニ姿、下半身はキュロットスカートを履いたREINAが登場する。



今日は野外会場で肌の露出が多い損格好だと肌寒いのか、それともこれから始まるイベントに怯えているのか、笑顔ではあるが彼女はどこか不安げな表情を浮かべている。




「みなさん、こんなにちは。今日は私の写真集イベントに来ていただいてありがとうございます。えっと、初めての写真集で緊張しましたが、自分ではとても楽しんで撮影できたと思います、今日は、腹パンチ会ということで、正直、人生でお腹を殴られたこともないし、腹筋もあまりないんでちょっと怖いですが、よろしくお願いします」




「ちょっと、手加減して殴っていただけるとうれしいな」と付け加え、REINAは自分の持っていたマイクを口元から離す。




「はい、では整理券のお持ちの方はこちらから尾並びください」




 整理券を持った彼女のファンたちが係りの指示通り彼女の舞台に向かって一列に並んでいく。その並んでいるファンたちの大半が男性である。先頭に並んだ男が整理券を渡し机に山済みになっている写真集を購入しその机の隣に立っている彼女に向かう。




その男は彼女よりも二十センチくらい高くて、体格は華奢な彼女の身体を四人並べたようないい言い方をすればがっしりした、悪い言い方をすれば肥満体系を男だった。



「いつも応援しています」




「ああ、はい」
 



REINAはこれから殴られる恐怖からか、ありがとうという言葉も笑顔も忘れ顔が強張っていたように見えた。




「いくよ」




「んん……」
 



男はそう言うと、彼女のお腹に殴るというか押し込む感じで自分の拳をゆっくり彼女の白い生腹に入れる。男の毛深い拳が華奢な彼女のお腹に半分くらいめり込む。彼女のお腹は予想以上に柔らかそうだった。



「大丈夫? 痛くなかった?」




 拳を彼女のお腹から離した男性は彼女を気遣う言葉を彼女にかける。



「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
 



REINAはお腹を片手で抑えながら、やっと安心したのか笑顔とありがとうの言葉が出てくる。




「じゃあ、次の方どうぞ」
 


それからも腹パンチ会とは言え、彼女のお腹を思いっきりどころか彼女を殴ろうとするファンはいなかった。殴るというか彼女のお腹に触れるだけという感じのファンが殆どだった。




 しかし、腹パンチ会が始まって三十人くらいが彼女との腹パンチを終えた時だった。



「ありがとうございます」
 


この頃には彼女はすっかりいつもの握手会のように、満面の笑みでパンチをするファンに対応する余裕が出てきていた。




「どうぞ」




 向かい合ったファンの男に、REINAは優しく声をかける。男は痩せていてメガネをかけている、言わばオタクという風貌の男だった。男は今までのファンとは違い、向かい合っている彼女に向かってどこか冷淡な表情に見えた。何か嫌な雰囲気を醸し出していた。



 男は拳を作り、彼女のお腹を思い切り殴り飛ばした。




「ウッ!!」
 



男が殴った瞬間、会場からは「ぺチ」という肌がぶつかる音が聴こえた。不意打ちだったのだろう。



彼女は殴られた瞬間、目を見開いて口からは唾が飛んだように見えた。彼女は両手でお腹を抑えてその場に蹲る。




会場がどよめく。




「俺、お前のこと嫌いなんだよ。いつもセンターででしゃばりやがって」
 



せき込む彼女に男はそう言い放って、その場を去っていく。男は所謂アンチという奴だろうと悟った。REINA以外の熱狂的ファンでそれでREINAのことは敵視している。そんな奴らにはこのイベントは確かに打ってつけだ。




それからも何とか立ち上がったREINAだったが、一部のアンチファンが彼女に過剰なパンチを彼女のお腹に浴びせるシーンが時たま見られた。そのたび、彼女は苦痛に顔を歪ませてその場に蹲る。
 


70人目くらいの時だった。もう、彼女は立っているのがやっとだった。殴られたお腹は青く内出血している部分も見られ、笑顔もなくただ殴られ続けて呼吸もしずらくなっているようで肩で息をして苦痛に顔を歪めて立っていた。
 この頃になると、どの男が彼女のファンでどの男が彼女のアンチか彼女と向かい合った瞬間にわかるようになっていた。
 


そしてその男は彼女のアンチだった。
 



彼女も男と向かい合った瞬間、それだとわかり思わず身体を縮めさせる。
 



男は彼女の首を辺りをゆっくりと両手で持った。彼女は少し猫背の状態になる。その男の行動に彼女は一瞬「え?」と戸惑った様子だった。次の瞬間だった。男の右ひざが彼女のお腹に向かって蹴り上げられた。
 



男は格闘経験があるようで、その蹴りは誰の目から見ても強烈な重い膝蹴りで鍛えている男性でもダメージがありそうに見えた。その蹴りが綺麗に彼女の鳩尾と胃袋の辺りにヒットする。



「ウ!! ハ!!」
 



彼女は例のごとく蹲る。男はその彼女を見届けることもなく去っていった。彼女は係の人間に立つように言われても中々立ち上がれなかった。
 



アナウンスで「殴る以外の行為はアイドルに負担がかかりますのでお止めください」と注意が流れる。
 



やっとのことでお腹を抑えながら立ち上がってくることができたREINA。そのガッツに一部の観客から拍手が送られる。しかし起き上がって抑えている手を離そうとした時だった。彼女は急に口を抑えてまたその場に蹲ってしまった。
 



口を抑えている彼女の手の隙間から茶色い液体がポタポタと流れ出てて来る。
 


会場はどよめきに包まれる。
 


係りの人間がすかさず彼女に詰め寄る。そして彼女は係りの人間に介抱されながら舞台の袖に下がっていった。




しばらくして、係りの人間から彼女の腹パンチ会の中止がマイクを通して告知させた。